ルバーブを楽しむ

デンマークでは、一年を夏季と冬季で区別します。日本のように四季が等分ではなく、夏が冬のほぼ半分で、夏と冬の入り口に春と秋が数週間ほど存在しているイメージです。あっという間に過ぎる春と秋、光に満ち溢れる夏を愛でる習慣は、等分でない四季に由来するように感じます。

デンマークの本格的な春は5月。皆が待ち侘びた光をたっぷり享受する季節の始まりです。

ルバーブは、デンマークの春を象徴する食材です。5月に入ると他の野菜やくだものに先駆けて店頭に並び、春を告げてくれます。初物のルバーブは、筍を店頭で見かける喜びと似ています。春に筍を目にすると筍料理を一連食べたくなりますが、ルバーブに出会うと、同じようにあれこれとルバーブを使いたくなります。筍と異なるのは、一般的な野菜の値段で手に入るので、春の味覚を身近に楽しめ、くだもののような使い方ができる点です。

ルバーブは蕗のような形状で、多肉質な葉柄を加熱して使います。5分くらい火を通すだけで柔らかくなります。デンマークで重宝されているのは、細くて深紅の葉柄で、濃厚な味を特徴とする「ワイン・ルバーブ」「いちごルバーブ」と呼ばれる品種。加熱すると、宝石のような美しい薔薇色に仕上がります。

鍋でさっと煮て、とろとろに仕上げたコンポートは、朝食にオートミール粥やライ麦パン粥、ヨーグルトにライ麦パンの甘そぼろと一緒に楽しめます。簡単スイーツとしても重宝しますし、にしんのフライパン焼きのソースやスメアブロの具材としても使えます。

2cm前後にカットしたルバーブを砂糖にまぶして耐熱皿に入れ、オートミール、バター、砂糖をざっくり混ぜたクランブル生地をのせて、オーブンで20〜30分焼くと、みんなが大好きなスイーツのできあがり。ホイップした生クリームやバニラアイスを添えて楽しみます。

ルバーブを生地に加えた焼きっぱなしのケーキは、ルバーブの酸味と生地のコクのコントラストが絶妙で、午後のティータイムが華やぎます。砂糖を加えたルバーブの煮汁は、少し気温が上がって、初夏を思わせる気候になった時に、冷水やソーダ水で割って楽しめます。ソルベもおすすめです。

畑で育ったいちごが出始めるのは、6月。待ち侘びている夏の序章をルバーブでさまざまに楽しむのは、デンマークらしい5月の風物詩です。独特の酸味と鮮やかな色は、春を迎えた食卓に華やぎを添えてくれます。

Photo: © Jan Oster


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。

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