夏休み

デンマークの7⽉は「夏休み」です。学校は⼀学年が終わるのが6⽉下旬なので、⽇本の春休みのように宿題のないお休みが8⽉上旬まで7週間近く続きます。学校やクラブ活動、習い事からすっかり離れて北欧の清涼で明るい夏を満喫できる期間です。

仕事は⼤⼈だけのものではなく、⼦どもも保育園や学校に通うという仕事をしているという考え⽅が⼀般的なデンマークでは、家族揃って「仕事」から離れて、気持ちよく過ごせる季節を家族で楽しみ、家族の絆を深め、リフレッシュを図ることを⼤切にしています。夏に3週間の有給休暇が保障されているのは、労働者に⾃分⾃⾝や家族のための時間が必要だという理解に基づきます。より持続可能な働き⽅とよりよい労働環境が、⻑期的な⽣産性の向上につながるという考え⽅は、今後さらに世界的レベルで注⽬されるのではないかと思います。

夏の休暇は2、3週間が⼀般的なので、社内だけではなく、社会全体が譲り合い、お互いの夏休みを尊重しているように映ります。7⽉には、さまざまなところで時間がかかり、機能しないことが多々あるのですが、その不便さをお互いにリフレッシュするための代償と受け入れるところに懐の深さを感じます。

⼦どものいる家庭ばかりではなく、仕事を引退したシニア世代も夏休みを楽しむ習慣があります。デンマークの⼈々にとって夏休みはリフレッシュ期間であると同時に、⻑い厳しい冬に備えて、⼼⾝をリセットし、エネルギーを蓄積する期間でもあるのでしょう。だからこそ、⽼若男⼥が太陽の恵みと豊かな自然を満喫できる夏休みを⼤切にしているのだと思います。

⾃転⾞王国のデンマークでは、サイクリング休暇も定番ですし、豊かな⾃然でのキャンプやハイキングにも⼈気があります。そして、⽔辺や海岸での何もしない⼀⽇、海辺や森での数時間に渡る散歩、芝⽣での読書、旬のトマトや胡⽠、ベリーの収穫、テラスやベランダでのゆっくりした⾷事なども夏らしいひとときです。身体だけではなく、⼼にもゆっくりしたお休みが必要だと主張するデンマークの⼈々の価値観を改めて感じます。

リラックス優先で⾷事の準備に時間をかけたくない時、遠出をして帰りが遅くなった時などの⼼強い助っ⼈は、デンマークの⼈々が愛してやまないライ⻨パン「ロブロ」です。夏休みもロブロのストックは必須。旬の野菜とスモークしたフレッシュチーズなどで、あっという間に夏らしい⾷卓が整います。あとは、ゆっくりと楽しむだけ。ロブロがあると安⼼、ロブロを⾷べると体調が整う、という考えが定着しています。夏休みにもロブロはその役割を全うし、⼼と⾝体のリフレッシュ期間を陰で⽀えています。

Photo: © Jan Oster


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。

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