デンマークの8⽉は猛暑とはほど遠く、朝⼣は15℃前後の清涼な空気に包まれ、明るさが続く夏の名残を楽しみながら、秋の収穫を⼼待ちにする季節です。
8⽉初旬には⼩さなプラムが店頭に並び始め、下旬には早⽣のりんごが登場します。いちご、ラズベリー、すぐりと続いたベリー類も、ブラックベリーがたわわに実る頃には、秋の気配が感じられるようになります。郊外では、刈り取った⻨のブロックが積まれている光景をあちこちで⽬にするようになり、いんげん、ズッキーニ、カリフラワー、キャベツ、フェンネル、不断草、ほうれん草など、店頭に並ぶ野菜も国産がほとんどを占めるようになります。
デンマークでは8⽉中旬に新学年が始まります。新しいリュックサックを背負った⼦どもたちの姿が⽬に留まりますが、開放感いっぱいの楽しい夏休みの後に始まる新学年は、どの⼦どもにとってもワクワクするもののようです。しっかりとリフレッシュしたあとは、新しいことに挑戦できる喜びが⾃然と湧いてくるのでしょう。また、家族以外にも⾃分の居場所があることを嬉しく感じているのかもしれません。夏の休暇から戻ってきた⼤⼈たちも、満⾯の笑みでこう⼝にします。「職場に戻って、⾃分の仕事ができるって、本当にありがたいことだと⼼から思うよ。」
学校が始まると、国中に漂っていた夏休みモードはすっかり影を潜めますが、天気のよい⽇には、海辺や公園、テラスなどで夏の名残を楽しむ⼈々の姿が⾒られます。
新学年の始まりには収穫の季節が重なることもあり、年齢に応じた農場体験がカリキュラムに組み込まれています。「⼟から⾷卓まで」というスローガンを掲げるデンマークでは、太陽と⼟が育んだ農作物が、お百姓さんの⼿を借りて実るまでのプロセスを体験することが、⾷育の⼀環として⼤切にされています。
また、⽣物の多様性や環境保全が重視される近年では、持続可能な社会づくりの⼀環として、オーガニック農業への関⼼が⾼まっており、農場⾒学や実習などのかたちで授業に取り⼊れられる機会も増えています。雑草や野草を⼤切にし、昆⾍や微⽣物が過ごしやすい環境づくりを⼼がけながら、循環型の肥料で多様な野菜、⾖、穀物を育てる。そして、⽜や豚、鶏などの⽣態に即した⽅法で飼育する――こうした農場は、⽣態系の循環を学ぶうえで、理想的な学びの場といえるでしょう。
幼稚園での給⾷導⼊に関わっていた頃、8⽉の恒例⾏事として⾏われていたバター作りに、何度か参加しました。⼩瓶に⼊れた⽣クリームを何度も振って作る⾃家製バターを塗るのは、もちろん、ライ麦パン「ロブロ」。⻭の跡がつくほどバターをたっぷり塗ったロブロを、嬉しそうに頬張る⼦どもたちの姿は、今も⼼に焼きついています。
Photo: © Jan Oster
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。