デンマークでは、大晦日の深夜、行く年と来る年の変わり目を新しい年の始まりと捉えています。
日本とデンマークの時差は8時間ありますが、日本で新年のあいさつを交わす頃と、デンマークで1月1日午前0時を迎えて新年を祝う時刻は、偶然にもほぼ重なります。
日本では、屠蘇や雑煮、おせち料理で新年を寿ぎますが、デンマークでは、大晦日に始まるニューイヤーズパーティーの最中、深夜0時のカウントダウンを待ち、シャンパンと「クランセケーエ」と呼ばれる、お祝い菓子で新年を祝います。
クリスマスには清楚な装いで家族や親族が集まりますが、ニューイヤーズパーティーでは華やかな衣装に身を包む人も多く、友人や知人が集まって賑やかに祝います。国を挙げた大晦日の恒例行事は、夕方6時からの王様による新年に向けたスピーチの拝聴。皆でテレビ中継を見た後、アペリティフに続いて前菜・主菜・デザートがコース仕立てで数時間に及びます。
新年を祝うクランセケーエは、ニューイヤーズパーティーの中盤を彩ります。なまこ型を人数分用意することもあれば、シャンパンでの乾杯の後、タワー型にたくさんの国旗が飾られたものを、集まった人たちで少しずつ分け合うこともあります。
クランセケーエは、アーモンドと砂糖のペースト(アーモンド含有量60〜70%)にアーモンドパウダー、砂糖、卵白を加えて練ってなめらかな生地を成形し、焼き上げたお菓子です。お一人様サイズのなまこ型が一般的ですが、大きさの異なるリングを焼いて重ね、タワー型やヴァイキングの角杯、ゆりかごのような形に組み立てるとお祝い感が増します。また、少し柔らかい生地を絞り出し、クッキーのように焼く手法もあります。
クランセケーエの主原料は、デンマークでは採れないアーモンドです。ヨーロッパ南部から輸入されるため、かつては非常に貴重な食材でした。現在でも安価とはいえないアーモンドをふんだんに使うクランセケーエは、古くから人生の節目を祝う大切なお菓子として扱われてきました。
近年はあまり見かけなくなりましたが、ヴァイキングの角杯から宝がざくざくと湧き出るような意匠のクランセケーエは、結婚のお祝いに使われました。たくさんのお宝は、絞り出して作った小さなクランセケーエで表現され、子宝に恵まれ、生涯にわたって経済的に困らないようにとの願いが込められていました。また、ゆりかごにたくさんのお宝が入った意匠は、子どもの誕生を祝し、その子の一生の幸せと健康、そして暮らしを支える経済基盤を祈る意味があったといわれています。
継続的な幸せを祈るクランセケーエは、新しい年の始まりにふさわしいお菓子だと感じます。
みなさまにとっても、今年が健やかで穏やかな一年となりますように。
Photo: © Jan Oster
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。2020年発刊の『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。2024年5月『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社刊)を発刊。2024年9月と10月に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。




