デンマークの9月は、収穫の季節。国産りんごが店頭に並び始めると、秋の到来を感じます。
デンマークで暮らし始めた頃、秋の移り変わりをりんごの品種で感じることを学び、柑橘類の生産が盛んな広島で育った私には、それがとても新鮮に映りました。
デンマークは330種類のりんごが栽培されてきたりんご王国と言われ、一軒家には、庭にりんごの木があるのが定番。秋にはりんごがたわわになります。「果樹園」という単語が「りんご園」の代名詞となっていることにも、デンマークでのりんごの位置付けを垣間見ることができます。
デンマークのりんごは、収穫時期で「早生」「中生」「晩生」と分類できます。早生は水分量が多く新鮮なうちに楽しむ品種、中生は甘みや香りが特徴的で保存も利き、晩生は長期保存や加熱料理に適しています。
これまで、ライ麦パン「ロブロ」がデンマークの社会で親しまれていることをお話ししてきましたが、りんごもロブロと同じように庶民的な立場で親しまれてきました。りんごをかじりながら街を歩く姿もよく見かけますが、お菓子にも庶民的な料理にも使われてきました。デンマークで「昔風りんごのケーキ ※1」というメニューを頼むと、りんご煮マッシュと砕いたデンマーク風マカロンや小麦パンの甘そぼろを層にしたスイーツが出てきます。このスイーツには、ライ麦パンの甘そぼろを使った姉妹版もあります。その名も「ベールをかぶった農家の娘さん」。「手拭いがけの農家の娘さん」と呼ぶ方が想像しやすいかもしれませんね。ロブロの甘そぼろが持つ複雑な旨みが、りんごのやさしい酸味や甘みを引き立てる滋味スイーツです ※2。
りんごは料理にも使います。伝統的なデンマーク料理の代表格は「豚りんご」。各家庭で好みのレシピがあり、りんごの種類でも仕上がりが異なるため、レシピが出しにくい料理です。豚の三枚肉と玉ねぎとりんご、という基本材料で、塩や香味野菜で旨みや風味を加えます。カリカリに焼いた豚と柔らかく火を入れた玉ねぎとりんごの温かい料理にロブロを添えます。ロブロがあって完成する料理です。ロブロは温かい料理の脇でバターを塗って食べたり、温かい料理をのせて食べたり、と、好みで食べ方が分かれます ※3。
庭にたわわになるりんごは消費しきれないので、かつては、近郊にりんごを持ち込んで低温圧搾してもらえる「りんご圧搾屋」さんがありました ※4。 低温圧搾による果汁100%のストレートジュースは自然な甘みや風味が豊かで、濃縮還元ジュースにはないおいしさがあります。また、自分の庭で採れたものをとことん使い切る、そんな暮らしぶりには、ここ数年、高らかに謳われている「サステナブル」の根幹を感じます。
=====
※1 「昔風りんごのケーキ」のレシピは、『北欧料理大全』(誠文堂新光社刊)P.182でご紹介しています。
※2 「ベールをかぶった農家の娘さん」のレシピは、『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』P.170でご紹介しています。
※3 我が家では、夫は前、息子は後の食べ方を好みます。
※4 販売用のりんご圧搾は低温殺菌を行う必要があるため、現在は衛生管理の行き届いた工場で行われています。
Photo: © Jan Oster
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。『北欧料理大全』では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。5月13日には『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(ともに誠文堂新光社 刊)を発刊。www.kuramoto.dk www.instagram.com/sachikokuramoto.dk/