デンマークの5月は、森が輝く季節を迎えます。
森は木の種類によって表情ががらりと変わりますが、デンマークで「森」といえば「橅(ぶな)の森」。橅はデンマークの国木であり、その壮麗な姿は国歌や愛唱歌でも讃えられ、平和と長寿、繁栄を象徴しているように思います。日本での「松」の存在と似ているかもしれません。
4月になると、イチリンソウが森の地面にじゅうたんを敷いたように彩るのは、春の風物詩です。そして5月になると若葉が一斉に芽吹き、森に輝きを与えます。大きな古木が透けるような若葉をまとう風情は、まるで立派な貴婦人が繊細なレースのドレスをまとっているかのようで、その木漏れ日の美しさは、思わず息を呑むほどです。特に5月初旬、橅の若葉が芽吹きはじめた頃に森を訪れると、樹々の間から差し込む光がキラキラと美しくきらめき、まるで上質の温泉に浸かったような満足感とリラックス感が、心と体に行き渡ります。
新緑の森では、樹に育まれる若葉だけでなく、森に棲むさまざまな生命が芽吹きます。美しい鳥のさえずりや木をつつく音が森のあちこちから聞こえ、足元では小さな野ねずみが時折顔をのぞかせ、りすが木に駆け上る情景は、いつまで見ていても飽きることがありません。
太陽の光と雨だけで、落ち葉が土に戻り、微生物・菌・植物・動物が循環する森の仕組みは、ゼロインプット/再生型のモデルに限りなく近いように思います。「食べ過ぎない」「作りすぎない」という考え方は持続可能な社会の鍵になると思いますが、これからの持続可能性を考えるとき、森は農や食が目指すべき姿を示す、大切な手がかりの一つではないでしょうか。
橅は、虫や鳥が葉を食べないように毒性のある物質を生成するといわれています。しかし、芽吹いてから1~2週間ほどの、まだ産毛をまとっている頃の葉にはその毒性物質が生成されていないため、食用としても楽しむことができます。グリーンサラダだけではなく、散歩の途中で橅の若葉を摘みながら口にするのも、この季節ならではの楽しみです。この時期のたんぽぽの葉も柔らかくおいしく、ラムソンと呼ばれる行者にんにく(葉にんにく)の一種も、この季節の恵みです。どちらもたくさん摘めたら、デンマークのライ麦パン「ロブロ」と相性のよいグリーンペーストにすると、春ならではの味を食卓で楽しむことができます。森の循環に触れると、日々の食のあり方についても、あらためて考えさせられます。
ライ麦は環境再生に大きく貢献できる穀物です。ロブロはライ麦を全粒で使うため、廃棄もほとんどありません。食物繊維が豊富で栄養密度が高く、8ミリほどの厚さの一枚で満足できるロブロは、おいしさだけでなく、持続可能性の面でもこれからの食に貢献できるのかもしれません。
Photo: © Jan Oster
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30 年以上の暮らしで築いた独自の視点で、デンマークの豊かな文化と人々の暮らしに密着してきたパン「ロブロ」を啓蒙している。『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』著者。『北欧料理大全』『スモーブロ・ザ・マニュアル』訳者。




