8月の実り

デンマークの8月は、夏から秋へと季節が受け継がれていく月です。
6月のいちごに始まり、7月にはラズベリーやチェリーが旬を迎え、庭には丸すぐりや白すぐりが実をつけ、赤すぐりも実ります。黒すぐりが熟れ頃になると「そろそろ、新学年が始まるな」と感じます。(※1)

黒すぐりが揃うと作りたくなるのが、赤いベリーのさっと煮。『赤いベリーのコンポート』とも呼ばれる夏を代表するデザートです。(※2)いちご、ラズベリー、チェリー、そして庭で採れた赤や黒のすぐりに、重量の20%ほどの砂糖を加え、ベリーから出た水分だけでさっと煮て、とろみをつけるシンプルなデザートです。フレッシュな生クリームをかけて楽しみます。少しばかり紫がかった赤の美しい色合いが楽しめ、さまざまなベリーの酸味と甘みが複雑に調和する味わいが魅力です。酸味をしっかり効かせて仕上げると、生クリームの甘味やコクと相まって、より豊かな味わいが生まれます。

庭でベリーがたくさん採れたら、ジャムにするのも夏仕事のひとつです。ベリーのジャムは、家庭でよく作られていました。それは、一度にたくさん採れるベリーを無駄なく楽しむ方法であると同時に、厳しい冬の間、そのジャムを味わうことで夏の輝きや楽しかった時間を思い返すことができるからこそ、特別な意味があるのだと教えてもらったことがあります。

パンに塗るものという存在を超えた、もっと深いものがジャムに秘められていることに心を動かされ、以来、手作りのジャムには特別な敬意を抱いています。コペンハーゲンのカフェでも、パンにバターとチーズだけではなく、手作りのジャムを添えてあることがあります。そんなジャムに出会うと、そのお店の価値観を垣間見た気がして、少し嬉しくなるのです。豊かな実りをジャムという形で保存し、その喜びを次の季節へと受け渡していく。そこにサステナブルな暮らしの本質があるのかもしれません。

8月上旬には、麦の収穫も行われます。麦粒が大きくなり、しっかり実ってくると、穂はゆっくりと垂れ始めます。少し前まで青々としていた麦も、今ではすっかり黄金色に染まっています。

牧草地でも8月は刈り入れの季節です。この頃には、あたり一面に刈りたての牧草の香りが漂います。以前は巨大なトイレットペーパーのような牧草ロールがこの時期の風物詩でしたが、近年は「角ベール」をよく見かけることが多くなりました。

夏の恵みを受け取りながら、季節は静かに秋へ向かっています。9月にはりんごや洋梨など、ベリー以外の果実や野菜の収穫が始まります。季節とともに暮らす。その営みが、未来へとつながるサステナブルな食文化を育んでいるのかもしれません。

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※1 丸すぐりには「グースベリー」、赤すぐりは「レッドカラント/グロゼイユ」、黒すぐりは「ブラックカラント/カシス」という別称があります。

※2 デンマークの夏を代表するデザートRØD GRØD MED FLØDE(ロド グロ メ フリューデ)は、『北欧料理大全』P.177でご紹介しています。

Photo: © Jan Oster


 

くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上の暮らしで築いた独自の視点で、デンマークの豊かな文化と人々の暮らしに密着してきたパン「ロブロ」の魅力を伝えている。『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』著者。『北欧料理大全』『スモーブロ・ザ・マニュアル』訳者。

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