デンマークのライ麦パンの基本は、とってもシンプル。ライ麦を発酵させたライサワー種にライ麦全粒粉と水と塩を合わせ、発酵させて焼く手法は、1000年に渡って受け継がれてきました。家庭では、発酵させた生地の一部をライサワー種として繋いでいく方法が一般的。合理的で無駄がありません。ライサワー種による発酵では、深く複雑な旨みと独特のふっくら感や香りが生まれ、焼き上がった後にも「熟成」という過程が楽しめます。
パンは焼きたてがおいしい、と思いがちですが、ライサワー種で発酵させたライ麦パンは少し日が経つことでおいしさが増します。ライ麦パンを焼く時に家中に漂う香りは幸せで満たされた気持ちをもたらしますが、生地が落ち着いて、思うような厚みにカットできるようになるまでには時間を要します。
焼いてから一晩経ち、生地が落ち着きはじめたら、バターやスプレッドをぬるだけのシンプルな食べ方や、料理に添えるなど、パンをそのまま楽しみましょう。端を落とした後の最初のカットは「バージンスライス」と呼ばれ、ライ麦パンの香りやフレッシュさが味わえます。
3日目になると熟成により独特の旨みやまろやかさが加わります。好みのスライスがしやすくなり、しっかりと具を使いたいスメアブロやサンドイッチなどが楽しめます。スメアブロでお客様をお招きするときには、この日のものが使えるように逆算して焼いています。
4日目以降は少しパサつきを感じ始めますが、トーストすると香りとふっくら感が戻ります。面白いのは、2日目と4日目でトーストの味に違いがあり、熟成している4日目の方がおいしいこと。4日目をお好みの厚さや大きさで冷凍しておき、直接トーストする方法でもライ麦の香りとふっくら感が楽しめます。
ライ麦パンはよく味わって食べると満足感があります。小さめ薄めの一枚なのに、腹持ちがよく、血糖値の急上昇を防ぐことができ、食物繊維もミネラルもたっぷり。お仕事やお勉強で忙しい時間のない方、そして、お子さまやお年寄りにも安心して召し上がっていただけます。おやつでも、ほんの少しのバターやはちみつで、お菓子とは違う満足感と滋養を得ることができます。
デンマークのライ麦パンはパサつきが出てきても楽しみが続きます。クラッカー仕立て、そぼろやクルトンなど、硬くなる前に準備することで、おいしさが広がります。硬くなれば、水に漬けてお粥にして、そこから広がる楽しみもあります。深く複雑な味を持つライ麦パンだからこそ味わえる醍醐味です。そぼろで楽しむ方法については、次号でもう少し詳しくご紹介します。
Photo: © Jan Oster
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。『北欧料理大全』では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。5月13日には『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(ともに誠文堂新光社 刊)を発刊。www.kuramoto.dk www.instagram.com/sachikokuramoto.dk/