新学期と、ライ麦パンのお弁当

デンマークの8月は収穫と新しい学年が始まる月です。麦畑の刈り入れは収穫の季節の象徴で、秋への入り口を感じます。

6月下旬から始まる7週間の学校の夏休みも8月に入ると終わりに近づきます。休暇を過ごした人々がそれぞれの体験を共有するのもこの頃。カフェのテラス席や近くの海辺などで夏を惜しむように久しぶりの再会を楽しみます。閑散としていた集合住宅の中庭にも、子どもたちの声が戻ってきます。

デンマークの学校のお休みには、宿題がありません。特に夏休みは太陽の恵みが大きな季節なので、勉強や仕事から離れて心身ともにリラックスすることが大切と考える傾向が強いのです。心身を十分にリラックスさせることで、これから迎える冬半期を乗り越える土台を作る、そのような考え方があります。太陽の光を享受することへの熱意には、冬半期、太陽が遠い存在となる北の国ならではの渇望を感じます。8月は、散歩やサイクリングで自然を散策する、野菜や動物を育てている農家に出向く、などの楽しみがあり、それをじっくりと味わいます。

デンマークのライ麦パン「Rugbrød(ロブロまたは、ラグブロート)」は、多くの人のお昼ごはんに使われます。20世紀に入って、温かい料理を家族揃って食べる習慣が昼から夜に変更した頃から、お昼にロブロを食べる習慣が定着しました。
たくさんの具材をのせてナイフとフォークで食べるタイプのオープンサンドイッチ「スメアブロ」は、お昼のご馳走料理として発展しましたが、どこかに持ち運ぶお弁当は、手で食べるタイプが一般的です。子どものお弁当には、レバーパテやフムスが塗ってあるロブロなど、手で食べやすいことが考慮されたシンプルなものが主流。お弁当箱もロブロサイズが考えられています。お弁当に食物繊維もミネラルもたっぷりのロブロを使うと、栄養面でも腹持ちの面でも安心・・・デンマークでの根幹をなす考え方です。

一般的なロブロ弁当には、にんじん、きゅうり、パプリカなどの生で食べられる野菜を別に用意しますが、荷物をコンパクトにしたい時には、ロブロ・サンドが便利です。ロブロを使うと型崩れしないことも嬉しい要素です。
いつものサンドイッチに使う具材で作れますが、6〜8㎜厚くらいのロブロを2枚使うのが定番。食パンで作るサンドイッチと比べて驚くほど小さなサイズですが、タンパク源だけではなく、野菜をたっぷり入れると味覚や食感にも変化が出て、1組で満足のいく一食となります。

8月中旬から始まった新学年。新しい大きなリュックサックを背負った小さな子どもが目に留まります。夏の明るい光のもとで、子どもたちの喜びと期待に満ちた顔はとびきり輝いて見えます。

Photo: © Jan Oster


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。『北欧料理大全』では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。5月13日には『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(ともに誠文堂新光社 刊)を発刊。www.kuramoto.dk www.instagram.com/sachikokuramoto.dk/