ライ麦パンとサステナビリティ

デンマークの10月は、冬半期が始まる月です。秋と冬の境は10月中旬にある1週間の秋休み。かつては「じゃがいも休み」と呼ばれ、じゃがいもを土から掘り起こす作業に多くの手が必要だった時代、子どもたちも駆り出されていたため、学校の休暇として制定されました。200年ほど前の話です。現在は、家族がゆっくりと過ごす休暇となっています。秋色に染まる森での散歩、栗拾い(※1)、焚き火などは、秋休みの象徴です。

冷涼でやせた土地が多かったデンマークでは、1000年以上にわたり、肥料も日照量も小麦ほど必要ではないライ麦がパンの原料として栽培されてきました。ライ麦の種を蒔くのは10月中旬までが目安。秋休みまでに行われます。ライ麦は、やせた土地でも育ち、肥料もあまり必要とせず、頑強なので手をかけずに育てることができます。最近は、ライ麦の長い根が土壌を改良する手助けをしているという考え方も注目されています。ライ麦を育てることは土地を育てることにつながるため、環境にとってやさしい農業であるという考え方です。

持続可能という観点からは、「丸ごと食べる」ということにも注目すべきでしょう。ライ麦パン「ロブロ」は、ライ玄麦を挽き、精製することなく丸ごと使います(※2)。一般的なパンの主原料となる小麦の歩留は70%と言われ、麦総量の70%しか食糧になりません。そして、パンとして使われない30%の部分に栄養素の大半が含まれているのです。ライ麦を丸ごと挽いて作るロブロは、100%食糧となり、ライ麦の栄養も余すことなく摂取できます。

ライ麦は、特に食物繊維が豊富で、機能性にも優れており、腸内環境を整え、生活習慣病などの予防に効果があります。ロブロには、機能性に優れたライ麦を粉に挽いた後、発酵させる過程が加わるので、効率的な消化吸収が期待できます。噛みごたえがあるということも注目すべき点です。よく噛むことで唾液がしっかり加わると、消化吸収が促進されるだけでなく、ロブロが持つ複雑で深い味わいを楽しむことにも繋がります。その複雑で深い味わいは、パンとしてだけではなく、クルトンやそぼろとしても楽しめます。塩味はスープやサラダに、甘味はヨーグルトやアイスクリームに使えますが、それは、まるで魔法のトッピング。独特の旨味が調味料のような役割を担い、料理をワンランク上に引き上げます。おいしく「丸ごと食べる」ことには、メリットがたくさんありますね。

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※1 デンマークで採れる栗は、日照量が足りないため、食用にできず、飾りとして使います。
※2 クリスマスなどのお祝いの行事には、精製したライ麦の粉が特別に使われました。

Photo: © Jan Oster


くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。『北欧料理大全』では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。5月13日には『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(ともに誠文堂新光社 刊)を発刊。この秋に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。11月には、著者に同行した出版記念イベントが予定されている。広島アンデルセンでのイベントは、11月16日に行われる。

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