デンマークで暮らし始めた頃に驚いたのは、クリスマスの過ごし方でした。3日間、ずっと家族や親族と一緒に過ごすんだ!と衝撃に近い体験でした。子どもの頃、祖母の家に4人息子家族20名あまりが集合して賑やかに過ごしたお正月の光景と重なりました。
12月24日はクリスマスを迎える前夜。12月25日・26日は厳かに過ごすクリスマスの祝日です。キリスト教が普及する前は、この時期を太陽の力が蘇る起点として祝う習慣がありました。
デンマークでのクリスマスイヴは、家族や親族が集まり夕方から深夜まで和やかに祝います。居間に飾られたクリスマスツリーの元には、晩餐を囲む人それぞれへのプレゼントが所狭しと並びます。クリスマスイヴの祝膳を3時間以上かけて楽しむ習慣、晩餐の後、皆で手をつないでキャンドルを点灯させたクリスマスツリーの周りをぐるっと囲んで歩きながら讃美歌を歌う習慣、プレゼントは一つずつ開けて皆で楽しむ習慣、など、待ち侘びたクリスマスの到来を祝う行事は、今もさまざまな形で受け継がれています。
クリスマスの大きな行事は「家族で過ごすこと」。古きよき時代の正月三が日に似ていて、おせち料理のような存在がクリスマスに楽しむスメアブロです。どこの家でも、13時くらいに始まり、18時、19時あたりまで延々と続く、皆が楽しみにしている年一度の行事です(※1)。この祝膳の最初を飾るのは、にしんのマリネのスメアブロ。クリスマス・スパイスと呼ばれるナツメグやクローブ、八角などを入れたマリネ液で漬け、特別感を加えたりします(※2)。
この祝膳に欠かせないのも、デンマークのライ麦パン「ロブロ」。黒子のようにクリスマスの祝宴を支えます。献立は家庭ごとに決まっていることが多く、10人を軽く超える祝膳への負担がホストに偏らないように、持ち寄りにするのが最近のスタイルです。おばあちゃんが仕込むにしんのマリネ、アクセルおじさんのロブロ、ソフィアおばちゃんのレバーパテなど、年に一度、自慢の一品を味わえる喜びがあります。
かなりの品数が供されますが、料理が一斉に並ぶ賑やかなホームパーティーではありません。デンマークらしさは、お料理が決まった順番で少しずつ登場するスタイル。にしん、魚料理、肉料理、チーズ、一口菓子という大枠があります。最初の3つのカテゴリーでは、それぞれで複数の料理が並びます。常温と温かい料理は同じ分野でも別々に出します。5〜6回に分けて10品以上の料理が食卓に並びます。料理は大皿で供され、皆が好みのスメアブロに組み立てて楽しみます。
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※1 子どもたちは、途中で遊びに出たりしながら、ときどきテーブルに戻り、お腹の空いた分だけ食べて、また遊びに戻る、そんな形で楽しみます。
※2 にしんのマリネの下にゆでじゃがを置くのは、夫が大好きな組み合わせで、我が家での定番になっています。
Photo: © Jan Oster
くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上になるデンマークでの暮らしで築いた知識と経験による独自の視点で、デンマークの豊かな文化を紹介する企画や執筆を中心に活動。『北欧料理大全』では、翻訳、編集、序章の執筆を担当。5月13日には『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(ともに誠文堂新光社 刊)を発刊。この秋に発刊された『パニラ・フィスカーのアイロンビーズ・マジック』と『デンマーク発 ヘレナ&パニラのしましま編みニット』(ともに誠文堂新光社刊)でも翻訳と編集を担当している。