新じゃが

デンマークの6月は、新じゃがの収穫が始まる季節です。
店頭に並ぶ真っ赤ないちごや、あたりによい香りを放つエルダーベリーの花も初夏の訪れを告げてくれますが、一見地味に見える新じゃがも、多くの人が心待ちにしている食材です。地元産の新じゃがの初競りには驚くほどの値がつき、メディアでも大きく報道されます。それは、本格的な収穫の季節の到来を喜ぶ気持ちと、地元の産物を大切にする人々の思いを物語っているようです。

じゃがいもは一年を通して地元産が手に入る数少ない食材の一つです。それでも、みずみずしい小ぶりな新じゃがは特別な魅力を持ち、そのおいしさを楽しむ習慣は、デンマークの季節に寄り添う暮らしと深く結びついています。

私がデンマークで暮らし始めた頃、こちらの暮らしで欠かせない常識として、新じゃがは湿った土のついた小粒のものを選ぶこと、掘りたてのものは軽くなでるだけで皮がするりと剥けることを教えてもらいました。ほどよく塩茹でにした小粒の新じゃがは、ナッツを思わせる甘みと旨味があり、格別の味わいです。何十年もデンマークの新じゃがを茹でていますが、毎年この季節になると、理想の茹で加減を求めて真剣に鍋と向き合っています。

デンマークでは、新じゃがは塩茹でで食べるのが主流のように感じます。シンプルに塩茹でにした新じゃがは、ハーブ入りのバターソースやオランデーズソースともよく合い、アスパラガスや新にんじん、フレッシュなグリーンピースなどを添えるだけで季節感のある夕食になります。旬のパセリと和えてもおいしく、翌日は「じゃがいもごはん」と呼ばれるスメアブロ(*)として楽しむこともできます。採れたての野菜が彩る食卓には、旬の食材を大切にする姿勢とデンマークらしい豊かさを感じます。

新じゃがの季節が待ち遠しいのは、そのおいしさだけが理由ではないのかもしれません。そこには、毎年繰り返される暮らしの風景や、その営みを支える自然の大きな力への敬意が重なっています。旬の食材そのものの味を楽しむ食べ方は、過度な加工や複雑な調理を必要とせず、素材を無駄なく生かす知恵でもあります。そんな食卓は、「持続可能な暮らし」そのものを象徴しているように感じます。

*スメアブロは、デンマークを代表するライ麦全粒パン「ロブロ」に季節の具材をのせた、オープンサンドイッチ形式の料理です。

Photo: © Jan Oster


 

くらもとさちこ
コペンハーゲン在住。広島県出身。30年以上の暮らしで築いた独自の視点で、デンマークの豊かな文化と人々の暮らしに密着してきたパン「ロブロ」の魅力を伝えている。『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』著者。『北欧料理大全』『スモーブロ・ザ・マニュアル』訳者。

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